鳥海山から山形県の庄内平野に向かって流れ出している川は日向川水系と月光川水系のふたつですが、いま月光川本流には自然産卵のサケ(シロザケ)がたくさんのぼってきています。
同じ月光川水系の河川でも牛渡川や滝淵川などのサケは基本的に人工的に孵化させたものですが、この月光川本流では孵化事業をだいぶ前にやめたので、いまこの川で目にすることができるサケは、人手のかかっていない自然状態のサケです(写真は旧朝日橋のすぐ上流)。ここで4年ほど前に産卵し孵化し稚魚となり、春先に日本海に下ったあとにオホーツク海やベーリング海を回遊し、再び自分が生まれた川に子孫を残すために戻ってきました。
サケがのぼって来る川はほかにもたくさんありますが、自然産卵のようすを誰でも容易に間近かに見ることができる川はきわめて限られます。まず水がきれいであることが絶対条件ですが、産卵するには砂礫状の川底から湧水が豊富に出ていなければなりません。さらに数メートルという至近距離でそれを観察するとなると、流速と水深がわりあいおだやかであることも必要です。溺れてしまうかもしれないような深みがあり、流れの早い川では危なすぎて観察どころではありません。
毎年この時期(10〜12月)に私はサケの観察に来ていますが、今年は遡上するサケの数が例年より多いように思います。ということは4年前の川の状況がかなり良好であったということです。
産卵・放精したサケは役目を終えてほどなく死んでしまいますが(魚体が白化しているのはその前兆です)、死後も決して無駄に終わるわけではなく、貴重な栄養源として獣や鳥に食われ、虫や微生物に食われていきます。サケを通じて生命の大きな循環を実感することができます。
地元の遊佐町はせっかくこういう自然を有しながら、それがどれほど特異で希有なことなのかをあまり認識していないように思います。もちろんサケは公的な許可を得ないかぎり捕獲はいっさいできませんが(勝手にとると密漁で逮捕されます)、眺めるだけでもすばらしい得難い体験となるにちがいありません。