雨だれの那由他不可思議無量大数なり
わが国では数の単位は4桁ごとに名称が変わっていく。すなわち万の次は億でその次は兆。ここまでは普通に使われているが、その次の京(けい)となるとすこしあやしくなってくる。京は10の16乗。つまり1京は1の後に0が16個連なるわけだ。京よりさらに大きな数を順にあげると、垓(がい)、(じょ)、穣(じょう)、溝(こう)、澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)、恒河沙(こうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由他(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)で、最後の無量大数は10の68乗だ。それぞれの単位が興味深いが、なんといって恒河沙以降の阿僧祇・那由他・不可思議・無量大数がじつにいい。無量にして大いなる数であるとは、これはまさしく哲学であり宇宙の真理ですね。
はさみいる蛇の衣や蘚苔類図鑑
コケとふつう呼ばれる植物は、分類的には蘚類(せんるい)・苔類(たいるい)・つのごけ類の3群に大別される。ただし、つのごけの仲間はかなり小世帯なので、「蘚苔類」でコケ全体を指すことが一般的である。/顕花植物とちがって蘚苔類は基本的に非常に地味であるが、そこがまた魅力的と思う人もいる。日本国内ですらまだ調べ尽くされているとはいえず、本格的に探求すれば新種発見も夢ではなさそうだが、種の同定には細胞を顕微鏡で調べる必要があるなどの場合も珍しくないようだ。やはり素人にはかなり高いハードルである。
永き日の背丈ややにのびて山と山
夏至は過ぎてしまったものの、依然として日は長い。午後7時を過ぎても空はまだ明るい。冬場の、3時の休憩を終わる頃にはすでに夕闇が迫ってくるのとはえらい違いである。/日が長いと、山や海や川、岩といった自然物さえもなにかゆったりとおおらかに大きく見えてくる。むろんそれは錯覚なのだが、動物たる人間は結局のところ純粋客観的に世界をとらえることはできず、いつも己の心情にそった主観でしかものを見ることはできないようである。