コーヒーブレーク 52 「銀一塊」

 

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峡谷の銀一塊の春の蝉

春5月頃に山に登ると蝉が鳴いている。平地の蝉はまだだが、鳥海山などの標高500〜1000mmあたりで新緑の樹々と競うようにして早々と鳴いているのはエゾハルゼミである。翅が透けているやや小型の蝉で、北海道から九州まで分布するが、寒冷地を好むため関東地方以西では標高800〜1000m超の高山に生息する。ここ山形県の場合は平地にはまずおらず、いくらか山間に入ってから遭遇することができるので、「山の蝉」という印象が強い。年のいちばん最初に耳にする蝉の鳴声であることからもそのイメージは鮮烈である。/鳴声は図鑑等では「ミョーキン、ミョーキン、ミョーキン、ミョーケケケケーーー」などと表されるが、聞き慣れないと蝉ではなくなにか鳥の鳴声や蛙の鳴声のようにも思われる。早朝から夕方まで精力的に鳴き、合唱性があるので、その地域一帯のエゾハルゼミが大合唱をしているようだ。風流というレベルを超えて「うるさい」と感ずるほど。

絶命のほたるぶくろに灯をともし

一昨年庭に植えた白花のホタルブクロは、その年はわりあい長く咲いていたものの、結局冬を無事にこすことはできなかったようで、翌年はまったく影も形もなかった。残念である。/ホタルブクロはキキョウ科の花で、名前はその釣り鐘状に下垂する花に蛍を入れて遊んだからだとも、提灯の古名が「灯垂る袋」でそこからきたとも言われる。通常は紅紫色の花なので、昼間にみたときにすでに灯がともっているというあんばいか。その点、白花であれば、夜に蛍を中に入れれば緑色に淡く光って幻想的かもしれない。しかしそれをほんとうに試してみるだけの数の蛍がそもそもいなくなったし、ホタルブクロのほうもどこにでもたくさん咲いているというような植物ではない。実際、人為的に植えたホタルブクロはよく見かけるが、野生でのそれを私は一度もみたことがない(ヤマホタルブクロはまた別で、それは鳥海山の中腹某所にありました)。

亀鳴くやないてもないても届かざる

亀は鳴くための発声器官を持っていないので実際には鳴くことはない。したがって「亀鳴く」という季語はフィクションである。それなのにこれが俳句では歴然とした春の季語と目されているのは、うとうととおだやかな春の日には亀だってつい我を忘れて鳴くやもしれぬという妄想がおこるからだろうか。たしかに他の季節ではこのフィクションは成立しない気がする。/と思ったらインターネット上で「亀もじつは鳴くことがある」という説がいくつも主張されていた。しかしそれはたいてい呼吸音だったりげっぷ、くちばし等がすれる音だったりするので、鳴いているわけではないという反論も。そうなると「鳴く」ということの定義付けの問題に発展しそうだが、少なくとも動物学的な意味ではやはり亀は鳴くことはないようである。

 

(※ 上の写真はオオイヌノフグリの群落で、赤紫色でぽつぽつ見えているのはヒメオドリコソウ。)

 

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