ペーパーウェイトDタイプの木取を先日集中的に行ったことはすでに記事にしましたが(1/26,27)、その中でもとくに変わった杢の材料について、読者の方から問い合わせもありましたので、あらためて詳しく紹介してみたいと思います。材料の幅(写真の縦方向の材料寸法)はいずれも約3cmで、杢のようすをわかりやすくするためにすこし表面を水で濡らしています。
キハダ(黄檗)です。樹皮の内側がカレー粉のようにまっ黄色をしているので漢字では黄肌・黄膚と書くこともあります。ミカン科の落葉高木で、黄色の部分には薬用成分のベルベリンを含み胃腸剤として重用されています。木材的には年輪が明瞭でクリによく似た感じの木目ですが、やや黄色味をおびています。ベルベリンのせいなのかどうか色やけがしやすいので、家具等に用いる場合は漆などで着色塗装されることが多いようです。/今回の材は年輪が細かく波打っており、さらにキルテッドといっていいような複雑な縮みも生じています。直径1m以上、樹齢も数百年は経っている大木だったようです。
上と同じくキハダですが、幅90cmほどの板の一部が黒く変色しており、それから切り出したものです。樹木が立ち枯れ状態のときにバクテリアかなにかの作用で黒くなったようですが、基本的には年輪にそってほぼ平行に色がさしているので、黒柿などの紋様の入り方とは原因も色素も異なると思います。通常であれば要するに腐れてしまう途中にあるわけですが、さまざまな幸運が重なってそうはならずに木地はしっかりしています。細かい縮みも見えます。/杢板といってもふつうの玉杢や縮杢などではない、さらに特殊な紋様が生じた杢板のことをスポルトと呼んでいますが、このキハダはまさにそれです。私自身は初めて遭遇する変わり杢で、これまで耳にしたこともありません。鏡面塗装したらどうなるのか非常に楽しみです。
タモです。正式にはヤチダモといい、モクセイ科の落葉高木で、樹高は最大で35mにもなります。直径も1mほどになることもあり幹が通直なので家具材や器具、建築造作材、建具などに広く用いられています。ただし通常のタモでは素直かつ大味なので、ペーパーウェイトのような小物にはあまり向いていません。/しかし今回のタモはバール(瘤材のこと)です。ケヤキやニレなどであればバールはなくはないのですが、タモのバールというのはきわめて珍しいと思います。
マスールバーチ(Masur birch)というたいへん希少な材です。バーチはカバノキのことですが、マスールは「銘木材料」としての名前であって、植物学的な樹種そのものの名前ではないようです。ある種のカバノキの成長過程で樹皮に蛾の幼虫がついた食痕跡が上のような独特な模様になるのですが、他の樹木の虫食い跡のような空洞になっていないのは、樹がその傷を新たな侵出物で充填してしまうからとのこと。/当工房で持っている材は直径20cmほどの樹の、芯部分を含む三割り材ですが、喰み跡が不定期に同心円状に幼木段階から入っていることがわかります。結局樹は蛾の幼虫に樹皮をぼこぼこに食い荒らされながらも枯れることはなく成長していっているということですね。一種の「共生」ということなのかもしれません。