シテ句会 2015.1.22

 

奇数月の第三水曜日に開催しているシテ句会ですが、今月は事情があって次の日の1月22日に変更となりました。『シテ』は短詩形文学の作品発表と批評を目的とする同人誌ですが、メンバーは酒田市在住を中心に現在8名です。俳句も短詩形のひとつということで、外部にも開いた形で句会を開いています。今回の参加者は相蘇清太郎・阿蘇豊・今井富世・大江進・大場昭子・金井ハル・南悠一の7名でした(敬称略)が、他にひとり見学の方が加わりました。

句会の進め方は一般的なものと同様で、事前に各自2句ずつ無記名で投句し、当日、清記された2枚の句群からそれぞれ2句を選句します。選ぶ基準は自分からみてすぐれた句と思う句を選ぶわけですが、微妙にポイントはそれぞれ異なるようです。それもまた自由であって、とくに縛りがあるわけではありません。それから誰がどの句を取ったかを発表してもらい、各句の得点を数えます。次いで高点句から順に忌憚のない合評を行い、それが終わったところで初めて作者が名乗り出るという仕組みです。全体の投句数がそれほど多くないかぎり、できるだけすべての句に批評を行うことができるようにします。

以下はいちおう主宰の任を負う私=大江進からみての講評です。むろん文学ですから異なる意見や感想があるのは当然で、そのへんも含めて読者からコメントをいただければ幸いです。では第一幕から。頭の数字は得点です。

5  シベリアの風にぶつかる刺羽あり
3  とりあえず長須鯨をいただくか
0  さびしさも舌巻くほどの出羽の寒風(かぜ)
1  黒猫の雑煮(おわん)より餅盗らむとす
2  雨と霙のあわひにある給水塔
1  なおらないのよ窓辺でふたり寒スズメ
2  あられ舞い本日むすめ入籍す

最高点は1句目の<シベリアの〜>です。ここ山形県庄内地方には「シベリア颪」という言葉があるのだそうですが、冬期間それくらい強い北西の風が吹きます。刺羽(サシバ)は鷹の仲間で体長50cmほどの中型の鳥ですが、見晴らしのいい樹や杭、防雪柵の上に止まって地上のネズミなどを狙います。空中で風に拮抗するようにホバリング状態で飛んでいることも多いですね。イメージはすぐに浮かぶのですが、「ぶつかる」だと風の勢いに負けているような感じがしなくもないです。作者は大場昭子さん。

次点句は2句目<とりあえず〜>です。酒席で「とりあえずビール」みたいな調子で鯨を、しかも長須鯨をいただくという情景は実際にはまずありえないでしょうから、これは現代の捕鯨をめぐるあれこれへの皮肉や風刺の味わいがあろうかと。じつは私の句ですが、俳諧的なおかしみがある、口語が効いているという評がありました。こういったあまり俳句っぽくない句が比較的すんなりと受け止めていただけるのは喜ばしいです。

2点句はふたつありました。5句目<雨と霙の〜>は、霙が雨に変わってしまうということですから、かなり高さのある給水塔であることがわかります。もしかしたら塔上のタンクは霙でけぶってよく見えないかもしれません。いい句です。私も点を入れました。ただ雨が霙に変わるということではないと思いますし、一本調子に流れないように「雨と霙のあわひにあり〜」としたらどうでしょうかね。作者は南悠一さん。

次の2点句は最後の<あられ舞い〜>です。霰が強く降っている天気ですから、娘さんの入籍にいたるまでにはいろいろあったことがうかがわれます。親としては複雑な心境なのでしょう。もっとも表記は「霰舞い」とするか、「あれら舞う」とするともっといいかなと思います。作者は阿蘇豊さん。

4句目の<黒猫の〜>はじつは作者=相蘇清太郎さんによれば夏目漱石の『我輩は猫である』から題材を取ったとのこと。餅を盗ったのはいいものの、喉につかえてそれが元になって水瓶に落ちて死んでしまった猫のことですね。しかし、「雑煮」に「おわん」とルビをふるのはちょっと強引すぎますし、その後に餅とあるので「お椀」でいいのでは?

6句目の<なおらないのよ〜>は漠然としすぎて読者はつかみどころに欠けます。まあ、窓辺に人が二人いてなにかを話し合っているのでしょう。そして窓の近いところにふっくらとした冬の雀が数羽いるという状況ですから、そう深刻な話や言い争いではなさそうですが。「寒スズメ」は「寒雀」ですね。作者は金井ハルさん。

3句目の<さびしさも〜>は「出羽」は不要かと。また「寒風」と書いて「かぜ」と読ませるのはどうでしょうか。いっそ<寒風やさびしさは舌巻けにけり>くらいにしたほうが俳句らしくなりますね。作者は今井富世さん。

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句数が7句と少な目だと、批評しあうのに時間的にはだいぶ余裕があります。小休止のあと第二幕です。

2  門松に雪飾りいて晴着かな(いは旧かなのい)
1  来たことがあるかもしれない枯葉道
2  ポインセチア長く咲きすぎた酒を飲む
3  狸がひとつ落ちている国道七号線
1  凍風粉雪命ごいが一つ
0  さまざまの物音の中年惜しむ
5  林檎むく空にわずかな瑕がある

最高点は7句目の<林檎むく〜>です。現代詩の一節みたいです。林檎をむくことと、空にまるで傷(瑕)があるようだということとは直接的にはまったく関係がないわけですが、心象風景としては理解できます。ロマンチックである、格好がいい、ルネ-マグリットの絵を想像した、といった評がありました。私も取りました。でも、なにかすこし物足りないような気がします。作者は南悠一さん。

次点3点句は4句目の<狸がひとつ〜>で、私の句です。狸は俳句歳時記では冬の季語ということになっていますが、冬に限らずときおり狸が轢かれています。「落ちている」ですから、礫死体というよりはぱっと見にはただモノがごろんと落ちているだけのような、まさしく即物的な感じです。それだけにいっそう悲惨さを覚えることも。結句は10音と字余りもいいところですが、ここまで言い寄らないと上・中が生きてこないでしょう。

2点句はふたつあり、1句目の<門松に〜>は私も取りました。もっとも私は晴着は門松とは別個に実在するものと解釈して、季重なりながらかつ常套的ながらもいい感じだなと思ったのですが、作者の相蘇清太郎さんの弁によると下五は上中がそのまま修飾としてかかるとのこと。う〜ん、だとするとあまり面白くないです。天の神様が晴着が映えるように粋な計らいで、あるいは雪が少なくては淋しいとばかり家族なり友達なりが門松に雪をかぶせた、と想像したほうが面白いと思いましたが。

もうひとつの2点句は3句目の<ポインセチア〜>ですが、中句で「長く咲きすぎた」と言い過ぎているので、かえって句柄を細くしてしまっていると思います。さらに下五で「酒を飲む」ときたのではこれは演歌ですね。すみません。作者は金井ハルさん。

2句目の<来たことがあるかもしれない〜>は上・中が一足で続き、しかも下が枯葉道なので、常識的に予定調和的になってしまったと思います。上・中を工夫することでもう一語入れることができそうです。もしくは下五をありきたりではない、例えばですが「獣道」とかにしたらどうでしょうか? 作者は阿蘇豊さん。

5句目<凍風粉雪〜>は、命乞いをしているのはいったい誰なのか何なのかよくわかりません。凍風か粉雪のどちらかひとつ消すかしてもう一語入れれば、焦点がはっきりすると思うのですが。作者は今井富世さん。

6句目<さまざまの〜>は、年の背でなにかとあわただしく、片付けやら掃除やら買出、調理やらで忙しいなかにも、一瞬間しんと物音が消えたようになることがある。あるいは騒がしいからこその、芭蕉の<閑さや岩にしみ入る蝉の声>のような思い……。それはよくわかるのですが、「年惜しむ」は情緒的すぎる季語ですし、もっと全体に工夫が必要でしょうね。作者は大場昭子さん。

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7句しかないと逆に選句は苦しいです。また句数が少ない分、みんなから言いたいことを言いたいようにさんざん言われて、ひとによってはかなり凹むかもしれません。ですが、それがこういう少人数の句会のいいところでもあります。当然ですが誰も難癖をつけているわけではく、自分の句も他の人の句も、どうすればもっとよくなるかに腐心していると思うのです。1字を変える、上と中・下の順番を入れ替える、漢字をひらがなにする。それだけであ〜ら不思議、句ががぜん生き返ります。俳句は言葉の魔法なることの「実体験」といっていいと思います。

シテ句会は今の体勢になってからもうじき1年になりますが、私は非常に楽しみにしていますし得難い勉強の場になっていると考えています。つたない主宰ですが、これからもよろしくお願いします。

 

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