右か左か

 

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写真は20年ほど前に当工房で、お客様のご注文により製作したウォールナットの椅子ですが、はたして右脚はどちらでしょう? 向かって左の脚を右脚と答える人が多いと思いますが、当工房では向かって右側の脚を右脚としています。その理由を説明します。

椅子はほとんどの場合脚が4本あり、それに人が腰掛けた場合は自分の体の右側にくるほうを右脚とする、つまり自分と同化して考えるわけですね。また箪笥類(チェスト)や戸棚類(キャビネット)についてはどうでしょうか。それらはほとんど片面使いで裏と表があるわけですが、これもデザインによっては生き物の体を思わせるものがあり向かって左側を右と感ずることもあるでしょう。それ自体はごくふつうの感覚といえます。

しかし右か左かは相対的なものなので、見方によって容易に入れ替わってしまいます。椅子の右脚を作っているつもりでじつは左脚を作っていたなどということになりかねません。とりわけ複数の人間が製作にたずさわっている場合は混乱や事故のもとです。背もたれのある椅子や長椅子では前後は誰にもはっきりしていると思いますが、それとは別に「向かって右が右脚」と決めてしまえば間違い勘違いは避けることができます。戸棚などでも「向かって右側の側板や扉や抽斗が右の〜」と一律に決めます。

椅子の製作では、同時に背もたれのないスツールやベンチを作ることもしばしばあり、通常はそれはシンメトリーの形(線対称または点対称)なのでそもそも右も左もありません。テーブル類の場合も、抽斗を組み込んだりしたデスクなど以外は同様です。ではこれらのケースでは右と左はどうやって決めるのでしょうか? ユーザー的にはどうでもいい話ですが、製作者としては各部材はあくまでも1対1の関係にある、すなわちAの脚はBという幕板と接合するのであってCと入れ替え可能ではありません。なぜなら均一素材の工業製品ではないので、木目や色合いなどに微妙な差があり、また若干とはいえ材料のひずみや収縮があるからです。

したがって右・左・前・後がとくに特定されない家具の場合、当工房では上(または表面)からみて1時の位置にあるものを1番とし、あとは時計回りに2番・3番・4番と決めています。したがって4本脚のテーブルであれば1番の脚は1-2の幕板の1番側と、1-4の幕板の1番側とのみ接合します。この番号は絶対的なものなので、見る向きによって変わるということはありません。もちろん各部材には加工の初期の段階からその番号を記入しておきます。

(※ 先に椅子で「向かって右が右脚」といいましたが、いっそ右とか左はやめて上のように絶対的な番号を振ることにするほうがいいかもしれません。その場合は一般的には左後脚とされている脚が1番で、左前脚が2番〜、ということになるでしょうか。)

以上の話はむろん当工房の場合はこうしているということであって、一般論としてそれが正しいかどうか適切であるかどうかとは関係ありません。木工家のなかにはたまに欧米の木工の「教科書」をなかば絶対視し、それにならうべきとする人がいますが、ばかばかしいことです。それぞれの木工家・木工房でルールを決めればいい話ですね。

 

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