新しい鉋の仕立て
刃幅が48mmの小ぶりな鉋(かんな)をひとつ新調したことは、6月13日のブログに載せましたが、すぐに使用できるように他の作業の合間をみて仕立てました。
刃はおおよそまでは研いだ状態となって出荷されているのですが、最後の仕上げはエンドユーザーが自分自身で行わなければなりません。それは刃物メーカーが手を抜いているからではなく、同じ刃物でも使用者によって台への仕込みの硬さや刃の角度、台の凹凸の程度等が微妙に異なるからです。
そこでまず穂(2枚の刃のうちの大きい方の刃)の裏押しをして正確な平面を出します。金盤に金剛砂を少量まいて唾液で湿らせ、刃の裏をたんねんにこすり合わせます。金剛砂がしだいに細かくなり泥状になるにつれ、はじめは曇っていた刃裏が鏡のように滑らかになり光ってきます。片刃の刃物は刃裏が完全な平面であることが必須で、これができていない状態で刃の表をいくらていねいに研いでもよく切れる刃はつきません。
裏押しが終わって次は通常どおりに刃の表を研ぎます。写真は仕上用の天然砥石(紅葉巣板)で刃を研いでいるところですが、ほぼ完全に真っ平らに研ぐことができていれば、刃の切れ刃を砥石にぴったりと吸い付かせて停めることも可能です。30度の角度で鉋の刃が静止しているのは一見不思議な光景ですが、トリックでもなんでもありません。実際にはこうなる直前にスプレーで水をわずかに補給するのですが、あえてちょっと遊んでみました。
ミクロン一桁台の木材の薄削りにしろ、こういう「空中停止」にしろ、木工マニアやセミプロみたいな方が「どうだすごいだろう」と粋がっている光景が、ときおりインターネットに登場します。「ふん、あほくさい」と批判すると、中には「できもしないくせに。くやしかったら自分もやってみせてから言えよ」などとのたまう御仁もいます。が、そういうものはプロならできてあたりまえのことです。仕事とは直接無関係だし実際的ではないのでわざわざ普通はやらないだけ。
裏刃(2枚の刃のうちの小さい方の刃)も同様に研いだら、穂の表で台に接する面全体を柔らかめの鉛筆で塗りつぶし、それを台に軽く叩きこみます。鉛筆の跡が台に部分的に付着すると思いますが、その箇所をノミで軽く殺ぎ落とします。これを数回繰り返して、穂の表全体が台になじみ、ふつうに玄翁で穂の頭を軽くたたいたときに刃先が台面からほんのわずか出るくらいの硬さに調整します。
刃の仕込みができたら、あとは台面の調整ですが、鉋の下面(削る材料に接する面)はじつは真っ平らではありません。その鉋の用途、つまり荒削用なのか中仕上用なのか最終仕上用なのかといった違いによって、0.1〜0.2mm程度ですが任意に凹みを設けます。台が真っ平らだと逆に材料を平らに削ることはできません。凹みを付ける方法と道具にはいろいろありますが、最も一般的なのは台直鉋(だいならしかんな)+それ用の定規=下端定規を用いて、鉋台の下面を横削りする方法です。
今回は刃の研ぎから台の調整まで、しめて2時間弱ほどでした。というわけで、一般の方が「どうせなら」ということで本職用の高価な鉋を購入してもそのまますぐ使えるわけではなく、使えるようにするにはそれ用の道具も知識技術も必要ということです。なかなかめんどうですね。