※※ タイトルの入力が先日来うまくいかないので(ブログソフトのバグ?)、とうぶんの間「タイトルなし」とし、本文冒頭に見出しをすこし大きく付けることで代用とします。

モーエンセンのベンチ

 

ツイッターでオランダの家具デザイナー、ボーエ-モーエンセン(1914~1972)のベンチについて言及されていた方がいましたので、あらためてインターネットでいろいろ検索してみました。下の写真はツイッターの主が好意的にとりあげていたものと同じタイプのベンチです(座面の革の色は違います)。ナンバー3171、サイズは1700×445×760mmだそうです。この画像はColt online SHOP という通販のHPから拾いました。

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みなさんはどう思われますか? 私は率直に申し上げてがっくりです。まず形態のバランスが非常によくありません。座板が左右にでっぱりすぎています。横幅1700mmだと、画像から察するに片側230〜250mmくらい出ているのではないでしょうか。テーブルなどの場合もそうですが、荷重の支点となる本体部から甲板や座板が大きく出ていると不用意に力をくわえた際にひっくり返るおそれがあります。つまり怪我する恐れも大きいわけで、それはデザイン以前の問題。まったく話になりません。

次に全体に部材が細すぎます。シンプルというよりはこれではチープな印象しか受けません。もちろん家具メーカーが量産するにあたり、大人が2〜3人座っても壊れないだけの強度はいちおう確保しているのでしょうが、それならよしというわけではありません。折れたりしないまでも荷重をかけたときに歪み・たわみが実感できるのは不安です。見た目の安心感・安定感もとてもだいじで、私ならあまり積極的には座りたくないですね。座る人がおそるおそる心配しながら座らなければならないベンチというのはどうなんでしょうか。

ベンチは基本的に定位置にすえたまま使うので、必ず軽量化しなければならないというものではありません。まあ大人が二人で苦にせず移動できる程度の重さなら充分です。

一人がけの椅子の場合も、やたらと軽量化をうたう人がいますが、ふつうに大人が一人で持てればいいので、2kgだの3kgだのと必要以上に部材を殺ぎ落とすのは、それ自体が自己目的化しているようで私は感心しません。ちなみに当工房の椅子だとハイバックチェアの一番軽いもので4.4kg、他は5.5kgくらいはあります。見た目の安心感や、何十年もの耐久性を考えるとこれはゆずれませんし、実際お客様から重すぎるという苦情がくることはありません。「もうすこし軽いともっといいんだけどな」と言われたことはたしかにありますが、理由を説明すると納得してもらえました。

さて肝心なことのひとつが値段です。このモーエンセンのベンチは材質の違いや仕上げの違い、革張りの色などでいろいろなバリエーションがあるようですが、日本で通販で売られているのを拾ってみると30〜40万円くらいするようです。言うまでもなくそれは小売価格であって、各種のマージンを含めた値段なわけですが、この作りでその値段はないよなぁ、というのが私の感想です。おそらく製造原価はせいぜい6〜8万程度でしょうから。

家具にも造詣が深いといわれている某有名建築家が、一般の女性からの「どういう椅子を選んだらいいのでしょうか?」という質問に対し、「欧米の定番とされている有名な椅子を選べばまずまちがいないでしょう」云々と答えていたのには心底あきれました。飾り物ならともかく椅子はまず何よりも生活の実用的な道具です。それを体格も生活様式も異なる欧米の人たちが用いている椅子をそのまま無条件に日本に持ってきても合わないことのほうが多いと思います。身長140cm台の女性もけっして珍しくありませんから、座面が40cm以上もあるような椅子では深く腰掛けたときに足の裏が床に着かないでしょう。

ボーエ-モーエンセンにかぎりませんが、いいかげん欧米の著名なデザイナーをやみくもにありがたがる愚はよしにしたいと思います。むろん家具デザイナーや木工家などが、体格や生活様式等の違いをよく理解したうえで、批判的に向こうの家具を分析、参考にすることはたいそう有益なことです。

 

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