日別アーカイブ: 2017年4月25日

青猫句会 2017.4.19

 

恒例の毎月第三水曜日の青猫句会です。午後6時半〜9時「アングラーズカフェ」で開催しています。今回の参加者は相蘇清太郎・今井富世・大江進・大場昭子・齋藤豊司・佐藤歌音・南悠一・KAさんの8名。佐藤や志夫(やは弓+爾)さんは投句のみで、他に見学者お一人(OIさん)でした。句会の進め方はいつもどおりの、事前に無記名で2句投句、句会当日は2句ずつ2回選句です。
では其の一

2 村の子ら雲雀と揚がれ黒き土
4 さくらひとひら象の影を踏む
1 梨の花かなしきからだ覆うてゐる
2 蝶生るフォッサマグマの谷の昼
1 風ぬるみ聞こへぬ耳に桜かほる
0 春夕べ別れ惜しむか鴨の宴
2 ふらくたるふらくたる蛇穴を出づ
4 コッペパンへそにも桜花ひとつ

最高点は4点句はふたつ。まず<さくらひとひら象の影を踏む>ですが、大・小の取り合わせで、しかもふつうは大きなものが小さなものを踏むところを逆にしたのがユニーク。私も取りました。ただ一片の花びらが「踏む」というのはちょっとそぐわない感じもなくはないので、さらに要検討かなと思います。作者は南悠一さん。

ふたつめの4点句は<コッペパンへそにも桜花ひとつ>です。パンのへそというと誰しもがあんパンを想いますが、それがまずコッペパンであることに意外性があります。これも私も取りました。作者=佐藤歌音さんによれば実景であるとのことで、やはり意図的にコッペパンに凹みをつけてそこに塩漬けの桜の花を乗っけたもののようです。ただ「桜花」は音の響きがこの場合はあまりよくなく、とくにいまの時期ならなおさらですが花といえば桜に決まっているので、もうすこし推敲したいところです。

次点2点句は3句あります。一つ目の<村の子ら雲雀と揚がれ黒き土>は、草むらなどからヒバリが勢いよく空に揚がるようすを、子供たちにも期待したところでしょうか。下五の「黒き土」はたしかにまだ草もあまり萌え出していない時期の地面の色あいを指してはいるものの、どうも上・中に並べると唐突な感じはあります。切れもはっきりしません。「雲雀と揚がれ」はつまり春の季語である「揚雲雀」のことですから、それに続く言葉としてもっとふさわしい言葉がないでしょうか、とは思います。作者な相蘇清太郎さん。

二つ目は<蝶生るフォッサマグマの谷の昼>は、やはり下五が落ち着かないです。わざわざ「谷の昼」とするのも効いていないので、「谷の中」くらいでどうですかね。また上句は「蝶生れぬ(ちょうあれぬ)」とすればもっと臨場感や切迫感も出るかな。作者は大場昭子さん。

三つ目は<ふらくたるふらくたる蛇穴を出づ>は、よくわからないけれども音感や字面からは春先に蛇が穴からにょろりと出てくるようすに似合ってるかなという声がいくつか。作者は私ですが、ふらくたるはフラクタル図形のことで、部分と全体が相似形をなしているような図形のことです。難解な専門用語というほどの言葉ではないのですが、ちょっとわかりにくいかもしれません。もちろんひらがなにしたのは字の形を蛇の形態に合わせたものですが、くり返すことで呪文のような雰囲気も出そうとしたものです。

1点句の<梨の花かなしきからだ覆うてゐる>は内容が読み込めないことと「かなしき」の措辞が、<風ぬるみ聞こへぬ耳に桜かほる>は「桜」を故意に「はな」と読ませているところが、難点です。<春夕べ別れ惜しむか鴨の宴>は春の鴨の説明だけになってしまっています。

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其の二です。

3 産土や絵巻あらはる春の虹
2 獣にも腰痛頭痛霾ぐもり
0 鳥曇り山影映す水面かな
2 マゼンダにかたむく午睡の木蓮
0 神輿振る小さき社の村祭
4 春そろり来てゐた朝に汽車を待ち
4 啓蟄に行き戻りする足百本
1 足腰のたたぬ身の上花は散り

最高点は4点で其の一と同じく2句です。はじめの<春そろり来てゐた朝に汽車を待ち>はやはり「そろり」に抵抗感があります。それに全体的に調べがごこちないです。もっといい季語があるのでは? 作者は佐藤や志夫(やは弓+爾)さん。

次の<啓蟄に行き戻りする足百本>ですが、啓蟄の新暦3月5日ごろは当地ではまだまだ寒く、春というよりは冬の終わり頃というところ。したがって一時の陽気で穴から出てきた虫たちもまた穴にもどってしまいそうです。私も取ったのですが、ただし啓蟄という言葉自体はやはり虫たちがいっせいに出てくるさまを意味するので、上五で一度切る。そして「にもかかわらず」穴にもどるのもいる(いそうだ)ということで、中七を「行きつ戻りつ」とするのはどうでしょうか。「足百本」はムカデととってもいいし、数多の虫たちの足ととってもいいですね。作者は大場昭子さん。

次点は3点句の<産土や絵巻あらはる春の虹>です。虹の色合いが春の虹であることによって生きてきますね。薄く、しかしはっきりと色がだんだんと浮かんでくるようすを「産土の絵巻」としたのもとてもいいと思います。作者は佐藤歌音さんですが。其の一と合わせて7点獲得。今回はいい調子です。

2点句は2句あります。はじめの<獣にも腰痛頭痛霾ぐもり>は私の句です。よく人間は二足歩行になったために腰痛に悩まされることになったと言われることがあるのですが、それはまったくの俗説。実際には獣医さんなどによれば獣にも腰痛はよくあるとのことです。「霾ぐもり」は黄砂のことですが、空がぼんやりと黄色みを帯びてかすむようすは、身体のかすかに、あるいはしくしくと痛むのに似合っているかと。もちろん「腰痛」と韻を踏んでいることもあるし、「腰痛頭痛霾」と画数の多い漢字をごちゃっと固まらせたところもとうぜん意図的です。

二つ目は<マゼンダにかたむく午睡の木蓮>はまず「マゼンダ」がわからないかもです。業界用語としてはマゼンダなのでしょうが、ほんとうはマゼンタで、印刷の三原色のひとつの赤色のこと。で、木蓮にも紫色のシモクレンがあるし、白色ながらやや色味を帯びたものもあります。この句はそのあたりの微妙な感覚を詠んでいますが、うまくいってるかどうか。作者は南悠一さん。