戸棚や建物のドアなどの開閉に用いる金物の蝶番です。蝶の羽のように動くので「蝶番」なのですが、簡略的に「丁番」と記されることも。写真は左側ふたつが真鍮製で右がステンレス製、大きさは縦76mmと64mmです。
当工房では昔から蝶番はかならず真鍮製かステンレス製かどちらかしか使いません。鉄にメッキまたは塗装した蝶番なら値段もずっと安いのですが、どうしてもサビたり剥げたりの心配があるからです。形的にはほとんどの場合、装飾がいっさいないもっともシンプルな蝶番を使用しています。真鍮製にするかステンレス製にするかは、家具や建具全体の木部の材質やデザインとの相性を考えて決めます。真鍮製ははじめこそ金ぴかですが、ほどなく表面が曇って鈍い色合いにかわりそれが木部の色合いの変化とうまくなじんでいくように思います。
扉はインセット、すなわち家具本体の内側に面一で収まるように取り付けることを基本としていますが、扉がなめらかに開閉できるように、また見た目にもきれいに仕上がるように本体との間に適度な隙間が必要です。扉の大きさにもよりますが天地左右をおおむね0.5mm前後開けます。この隙間をもっと小さくすると見た目はいいのですが、あまり小さくすると温度湿度の影響や経年変化によって扉が本体をかじってしまい開閉がうまくいかなくなるおそれがあります。
さてインセット式の場合、図面上の寸法どおりにきちきちのサイズ、もしくは1mmくらい大きめに扉等を作り、それを実際の本体開口部にあてがってみて適度な隙間となめらかな開閉動作となるように手作業で一点ずつ調整します。この調整は一回二回で終わるようなことはまずなく、5〜10回ほども付けたり外したりがふつうです。もしその扉が1枚2枚ではなく8枚(4対)もあったりしたら正直なところウンザリします。
このように面倒かつ精緻・高度な手作業を要するインセット式の扉や抽斗はそれ故にすっかり敬遠されるようになり、量産の家具のみならず「手作り」を謳う家具でもアウトセット、つまり本体の前部を扉や抽斗前板が覆い隠すような作りのものが現在は主流になっています。これだと図面どおり計算通りに最初にきちんと扉や抽斗を作りさえすれば事後に削ったり切ったりの調整は不要ですし、スライド蝶番であれば扉を本体に付けてから調整ネジを回すことで簡単に出や傾きなどを直すことができます。本体外形寸法は変わらず、扉や抽斗の数も変わらないのであれば、手間ひま優先=コスト優先なら当然アウトセットになるでしょうね。
しかしインセット式できちんと作られた家具は、私はとても美しいと思います。またそれは正真正銘「手作り」でしかできない種類のものなので、当工房のような弱小零細工房にとっては最大のアピール要素にもなります。