遊佐町のTさんが先日、古い裁縫板を2台工房に持ってこられました。亡くなったお母様が長年裁縫台として使われていたものだそうで、1台は甲板がカヤの木のバール(瘤様の杢の出た材料)2枚はぎという非常に珍しいものです。下の写真がそれです。サイズは1810/623/270mmといったところ。もう1台はすこし小ぶりのケヤキの一枚板のものです。
手持ちの材料や古い家具を持参されて、「これで何か作れませんか?」と打診されることがときどきあります。今回もそのケースなわけですが、一般論的にいえば保管状態がよほどいいものであるとか、めったにないような貴重な材料である、寸法もわりあい大きめ、といったものでないと、それで何かの家具をあらたに製作することは難しい場合が多いです。反りや捻れがある、虫食いや腐りや割れがある、釘や金物・砂礫などの異物をかんでいる、乾燥が足りない、ホゾ穴や溝などが多数あり再利用するには量的に足りない、などといった理由からです。
それから別の理由もあります。畳一枚分もあるような大きな一枚板であるとか、先日も書いた黒柿や極上の杢板といった高級な材料であればまた話は異なりますが、注文家具の場合ふつうは値段の3割前後が材料代です。30万なら10万くらいが材料費。つまり7割または20万は材料代以外の加工賃と諸経費ということになります。したがってお客様が材料を持ち込まれても大幅に安くできるわけではありません。それどころか古材利用・転用はまっさらな材料から家具を製作するよりもよけいに手間がかかることがしばしばで、浮いたはずの材料費以上の手間賃がかかることさえあります。
以上のことを詳しくお伝えし理解していただいたうえで、それでもというときは喜んで作らせていただきます。今回Tさんは「母親の形見として残したい」とのご意向でした。どういうものができそうか、何に仕立てたらこの材料がいちばん生きるかをTさんとお話し、さっそく図面と概算見積を書くことになりました。