毎月第三水曜日の夜に開催している青猫句会です。今月は1月18日でした。場所と時間はいつもの通りで、酒田駅に近い「アングラーズカフェ」で午後6時半〜9時です。今回の参加者は相蘇清太郎・今井富世・大江進・大場昭子・齋藤豊司・佐藤歌音・南悠一、投句のみは佐藤や志夫(やは弓+爾)の、合わせて8名でした。それと見学がお一人。
この青猫句会は其の一と其の二の2部に分けて行います。参加者は事前に無記名で2句投句するのですが、おおむね当季の季語を入れるという以外の制約はありません。おおむねというのは「真冬なのに春や夏の季語は使わない」くらいのゆるやかなものです。また五七五の定型でなくともかまいません。
では其の一から。
2 襟正し郵便夫を待つ松飾り
0 ふと佇みをり侘助といふひと
1 淑気満つ心に朝を抱きて眠る
2 寒昴氷河くずれる音聞けり
5 抗ひて生きたるもよし今朝の雪
2 宝船定格オーバーを言い出せず
3 咳一つ雪降る夜にかくれけり
1 新玉に鈍色の宙光射し
最高点は<抗ひて生きたるもよし今朝の雪>で5点獲得。今朝の雪は元旦の朝の雪のことですから、今年一年の始まりにあたってなにがしかの決意や目標といったことを掲げ、または心に置くというのはよくわかります。しかしそれが「抗いて活きる」ではあまりにふつうすぎるようですし、そのわりにいったい何に抗うのかもみえてきません。もうすこししぼったほうがいいと思います。作者は佐藤歌音さん。
次点は<咳一つ雪降る夜にかくれけり>で3点。私も取りましたが、「咳一つ」とくると嫌がおうにも尾崎放哉の「咳をしても一人」を想い起こしてしまうので損していますね。それはともかくとしても、「かくれけり」がいまひとつとらえがたいです。風がなくて雪がすくなからぬ量で降り続いていると、音を吸い取ってしまうような感じでとても静かなわけですが、咳自体がたちまち無音となって静寂にもどってしまうということでしょうか。しかし「かくれる」が適切であるかどうかは一考を要すると思います。作者は今井富世さん。
2点句は3句あります。はじめの<襟正し郵便夫を待つ松飾り>を、襟を正して待っているのを家人ととった人が多かったようですが、この場合は松飾りが待っていたんですね。そうとったほうがおかしみがあっていいと私は感じました。それから、私自身はさして気にはしていないことですが、「郵便夫」の◯◯夫という表記を批判的にみる人がいるかもしれません。作者は相蘇清太郎さん。
次の2点句<寒昴氷河くずれる音聞けり>は景の大きな句です。昴がくっきり見えるような冬の星空を眺めていると、どこか遠いところから音がかすかに響いてきて、それはもしかしたら氷河が崩れる音かもしれない、と。地球温暖化や気候変動による氷河の衰退と解釈する必要は必ずしもないと思いますが、遠いそうしたできごとをさらに遠い星たちも見ているであろうということです。私も取りました。作者は大場昭子さん。
3つ目の2点句は<宝船定格オーバーを言い出せず>は、めでたい初夢をみることができるようにと宝船の絵を枕の下に敷いて寝るという新年の季語。船はたいてい宝物を満載しかつ豊満な七福神が載っているわけですが、それは舟の積載荷重を越えているようです。舟なので船頭もきっといるのでしょうが、なにしろ相手は神様なので言い出せない。定格というのは機械類の設計強度・容量などをいいますが、上五でいったん切れるので、必ずしも宝船のことだけをいっているわけではなさそうです。作者は私です。
1点句のふたつの句は、「心に」「新玉に」といった言葉が言わずもがなの感があり、よけいでしょうね。「宙」も「空」としたほうがいいです。
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この日は連日の降雪で路面状況がわるく、ほとんどの参加者が車で来るので、句会の開始がすこし遅れました。参加人数もそのこともあってか、やや寂しい様相を呈しています。句数が少ないと点が入った句も入らなかった句もだいたい全部に触れることができる面ではいいのですが、半面、誰の句であるのかがわかりやすくなってしまうので、面白みに欠けるきらいがあります。
では其の二です。
2 父と子の学習帳閉づ七日かな
2 底冷えて猫にも足袋をはかせたし
3 まっしろな白鳥そうでもない白鳥
0 淡雪の湯船密やか若き妻
1 赤裸々の内なる声あれ年始め
5 春の雷懐かしき人連れてくる
1 鶏の首ゆるく締めれば雪となる
2 炭竃に百年の苔杣の道
最高点は5点句<春の雷懐かしき人連れてくる>です、雷は夏の季語ということになっていますが、「春の雷」なのでこの地方でときおりある降雪の前の雷鳴でしょう。夏の雷のように激しく長く続くことはないので、どちらかといえばおだやかなやさしい感じのする雷です。それが中七・座五とうまく響き合っています。ありがちな句であるような気もしますが、まずはいい句。作者は佐藤歌音さん。
次点句は3点句<まっしろな白鳥そうでもない白鳥>ですが、五七五から大きく外れた句で、ひとによっては「これが俳句か?」というような句です。白鳥はその白さが強調されることがふつうですが、幼鳥などではなくとも比較的近い距離で、あるいは双眼鏡などでよく観察するとそれほど全身が白いわけではないことがわかります。しかしこの句はそういう「科学的事実」をいいたいわけではなく、「そうでもない」がくせものです。「あの人はいい人だよ」「いやあ、そうでもないよ」といったニュアンスですね。作者は私です。
2点句は三つ。最初の<父と子の学習帳閉づ七日かな>は私も取りました。今年は9日が月曜日で祝日でもあったので、10日から学校だった子供が多かったと思います。しかし通常であれば7日は正月休みの最後の日で、宿題の学習帳を親が手伝いながらやっと仕上げたという図でしょうか。「父と子の学習帳」がおかしいです。七日のことをこういうふうに詠んだ句は、私は初見です。作者は佐藤や志夫(やは弓+爾)さん。
次の2点句<底冷えて猫にも足袋をはかせたし>はまあ、そのままですね。脚の先だけ毛が白い猫もいるので、よけい既視感があります。いっそ足袋ではない、もっとなにか意外なもの奇妙なものを履かせたいです。作者は今井富世さん。
最後の2点句<炭竃に百年の苔杣の道>もまた炭竃+苔+杣道とあってはそろい踏みの感をまぬがれません。同じベクトルの同じような素材を並べすぎているように思います。作者は大場昭子さん。
さて1点句ですが問題句としてあえて私が取った<鶏の首ゆるく締めれば雪となる>です。ニワトリをしめて食すという場面のようです。ゆるく締めたのでは即死はしないので、強い力で一気に首をねじらないといけません。それは理屈では理解していても、やはり抵抗はあるのでしょう。そのためらいの心情が「ゆるく」に出ていると思います。座五の「雪となる」は火照った顔をしずめるように降ってくる雪、あるいは締められた後の毟られた無数の白い羽根のようでもあります。作者は南悠一さん。
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昨年の2月の句会はかなり雪が降ったので、参加を予定していた人のなかには車を出せないということで欠席になったひともいたことを思い出します。今年はどうでしょうか。次回は2月15日の開催予定です。読者のかたで興味関心のある方はまずは見学だけでもどうぞおいでください。
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