低地のブナ自然林

 

ブナといえばある程度標高のある山岳地の樹木というのが一般的な認識です。それは基本的にはそのとおりで、鳥海山の場合も標高500mくらいから上でないとブナに出会うことはまずありません。

しかし自然植生として大昔からそうであったのかといえば、どうやら違うようです。平地や低山域に生えていたブナはほとんどが農地の開拓や炭焼、住居・道路などの人為的な作用によって伐られてしまい、ほとんど完全に近いほど消滅してしまいました。これは単に推測で言ってるわけではなく、一般的認識とは逆に、きわめて稀で小規模ながらも標高のずっと低いところにもブナの自然林が現存しているからです。

今回紹介するのは鳥海山大物忌神社の蕨岡口ノ宮の境内にあるブナ自然林です。標高としてはなんと150mくらいしかありません。山形県庄内地方において他にもいくつか低地のブナ自然林は残存していると聞いていますが、私自身が現地に行って実際に観察したところをあげてみます。

大物忌神社蕨岡口ノ宮は地質的には鳥海山の一部といっていいのかどうか微妙なところですが、遊佐町の東方、庄内平野の東端の小高い山中中腹にあります。吹浦と並んで、鳥海山を御神体とする大物忌神社の口ノ宮ですが、往時はたいそうなにぎわいをみせたものの、鉄道や国道の網目から外れたことなどが大きな原因で、いまはかなり衰退しています。神社の建物はたいへん大きく立派であるだけに、かえって一抹の寂しさを覚えます。周辺一帯は通称「上寺(うわでら)」とよばれる門前町であったわけですが、今は実質その機能をほとんど喪失。かつて鳥海山に参詣する際の一大基点・宿場町として栄えたのですが、今はその面影はありません(私は宗教的なるものにはほとんど興味関心がないので、神社の来歴や修験道の意味合いなどについては触れません)。

神社の境内に入ると、平坦地の東側の縁に石段が見えます。400段ほどあるそうですが、傾斜がかなりあるところに直線で作られているため必然的に一段あたりの踏み代は小さくなってしまいます。ところどころ足が全部載らないほどの狭い段もあるので、登りはともかく下りは相当注意が必要です。

この石段の下ほうは左右がスギ林ですが、上るにつれてブナが現れてきて、上部三分の一くらいはブナが優占する広葉樹林となります。このブナ林は平成16年に遊佐町の天然記念物に指定されていますが、全体でどれくらいの面積があり何本くらいのブナが生えているのかはわかりませんでした。ただ石段の両側に数列以上の大きなブナが並んでいるので、少なくとも100本くらいの中・大木は生えているのではないでしょうか。いちばん太い樹で目通り60cmほど。

写真は今年の5月14日のものですが、新緑の薄みどりの若葉と白っぽい幹のコントラストがとても美しいです。石段を上り切ったところにも幹が分岐する大きなブナが生えていました(5枚目の写真)。人為的に植えたスギやモウソウチクなどがなく、境内全体がもしブナを主体とする自然林であったなら、どんなにか荘厳かつきわめて希少・貴重なものであったかと思うといささか残念です。

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