年内に発売予定のペーパーウェイトD、約60本。それに用いた素材9種類について順次説明をしてきましたが今回は最終回。スーヤバール、マスールバーチ、タモバール、キハダ縮杢&スポルト、ケヤキ樫目杢、シャム柿、ハードメープル縮杢に続いて、締めくくりはオニグルミの変わり杢です。
オニグルミはふつう略して単にクルミと呼ばれています。ヤチダモがタモと呼ばれるようなもの。つまりはそれほどには珍しい樹ではなく、当工房では家具材としては最も使用頻度の高い材料です。硬すぎず柔らかすぎず、色合いも濃すぎず淡すぎないことや、散孔材なので細かい加工にも向いていて、硬度がさほどではないわりにはじゅうぶん強度もあるからです。赤味を帯びた淡褐色はとてもおだやかな雰囲気があり、とくに洋家具にはぴったりです。
希少材ではないとはいえ、植林などはほとんどされておらず自然植生でも群落を成すことはないので(アレロパシー=他感作用による)、材積的にはいわゆる家具メーカーが使用するほどの量はとても確保できません。それを逆手に取るかたちで、当工房ではクルミをメインに使うことで零細小規模の木工房としての特色を出そうとしているわけです。
しかしよく使う材料でありながら、杢の出現は他の広葉樹にくらべると相当すくないほうです。太い枝の出た箇所や幹の股、根に近いところなどに部分的にしわ状の杢が見られるくらいで、板や角材全体に杢が生じているなどということはまずありません。ところがこれまでにたった1枚だけ、寸二厚(36mm厚)、長さ2mほどの板全体に鳥の羽根様の杢が生じていました。鶉(うずら)杢といえるような細かく明瞭なところは旋盤でいくつか蓋物をこしらえたのですが、今回のペーパーウェイトはその残りです。杢の程度はおだやかですこしもの足りない気もしますが、普段使いで気軽に使うにはかえっていいかもしれません。
玉杢や縮杢や波状杢・鳥眼杢・キルテッド(布状のはっきりしたしわ杢)といった明白な杢ではなく、なんといって呼んだらいいかはっきりしない。またひとつの材料の中なのに杢の表情にずいぶんと差があるといった場合は、まあ苦し紛れですが「変わり杢」と呼んでいます。