句集『境界 -border-』

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岡田一美さんの句集『境界 -border-』です。1976年富山市に生まれたそうなので、現在38歳くらいでしょうか。作句を始めたのは2006年とのことですが、作年(2014年)に現代俳句新人賞を得ています。

この句集には2011〜2014年までの163句がおよそ編年体で編まれています。写真は本人の撮影によるものだそうですが、公園の遊具でしょう。句集の表紙というと、いかにも花鳥風月そのままという感じのものがほとんどであるのに比べ、これは納められた句の内容とうまく響き合っていると思います。

さて俳句ですが、形としては季語+五七五の定型+旧かなを基本としていますが、素材やシチュエーション・テーマなどは現代的ですし、必ずしも分かりやすい句ばかりではありません。予定調和的にソフトランディングするのではなく、そうとう強くハードランディングしている句も散見できます。いい意味で観念的な句、意外な視線、「細部に神は宿る」的な精緻な景、非情冷酷な景も少なくありません。

たいへんいい句集だと思います。それにこのくらいの体裁とボリュームの句集であれば100部で○○万ほどでできるようなので(もちろん完全原稿をデータで渡して)、私にもがんばればなんとか手が届くかもしれません。

とほくに象死んで熟れゆく夜のバナナ
コスモスやひかり囲ひにされている (いは旧字)
焚火かの兎を入れて愛しめり
肌に雪ふれてこの身の循環器
遠足の写真のやうに仲良くす
快楽とは蜂ふるへたる花の中
白波をあげて汽船や松の花
茎容れて吸はれながらに水澄めり
和毛浮く囮でありしものの上
三界は時雨の檻ぞ咆哮す
漕ぎ出して燃ゆる夏蝶を見たか
半焼がまるごと濡れて春の火事
水仙の丘のうねりの果てて墓
くちなはのひかりつめたく泳ぎけり
嘶きをとほくに雪のひかりあふ
死んでいる以外は生きている海鼠 (いは旧字)
双六を三つすすんで絶滅す
入学試験四部屋に分かれいて心臓 (いは旧字)
やはらかき灰とも火蛾に火の移り
うつしみの魚影の冷ゆる泉かな
いつせいに羽根の浮かべる羽根布団
裏がへすやうに産みたる仔猫かな
忙しき河の底から水澄めり
蠅といふ季語ありにけり飛びにけり

 

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